中国「輸出管理法」を施行 日本企業への影響も懸念
2020-12-01 18:39:08


中国「輸出管理法」を施行 日本企業への影響も懸念


中国は、安全保障に関わる製品などの輸出規制を強化する、「輸出管理法」を1日施行しました。中国企業に対するアメリカ政府からの圧力に対抗するねらいですが、日本企業への影響も懸念されています。

1日に施行された中国の「輸出管理法」は、国の安全や利益を脅かす可能性があると判断した場合に製品などの輸出規制を強化します。

対象となる品目の輸出を許可制にするほか、特定の外国企業などをリスト化して輸出を禁止したり制限したりします。

違反した場合には罰金を科すほか刑事責任を追及することもあるとしています。

アメリカ政府が中国の通信機器大手、ファーウェイなどをリスト化して輸出を規制していることに対抗するねらいで、法律には、外国政府による輸出規制が中国の安全や利益に危害を及ぼした場合には対抗措置を取ると明記されています。

規制の対象は、軍事用品や軍事転用が可能な製品に加えて、技術やサービス、それにデータも含まれるとしていますが、現時点では、具体的な品目は明らかにされていません。

また、中国から輸出された素材などを使って加工し、その後、ほかの国に製品を輸出する場合も規制の対象になるとしていて、中国政府の運用しだいでは日本企業に影響が出ることも懸念されています。

懸念される影響は

輸出管理法は、対象となる品目や具体的な運用の在り方が明らかにされていないことから、日本企業も注視しています。

関心を集めているのが、希少な資源、レアアースが対象になるかどうかです。

レアアースは電気自動車のモーターのほか、家電の精密部品などの生産に欠かせず、日本は、全体のおよそ6割を中国から輸入しています。

対象になった場合、これまでどおり入手できるのか、新たにどのような手続きが必要になるのか、懸念されています。

また、「再輸出」と呼ばれる規定も影響が懸念されています。

これは、中国で生産された素材を輸入し、日本国内で加工してアメリカなど、ほかの国に輸出した場合も規制の対象になるという内容です。

輸出した製品を最終的に使用する企業が問題視された場合、中国からの素材の輸入に影響が出かねないと見られています。

また、直接、中国から素材を輸入していない場合でも、自社が購入する部品などに使われている中国の素材の割合によっては規制の対象になる可能性も指摘されています。

このほかの懸念の1つに「みなし輸出」という規定があります。

これは、中国国内であっても、中国人から外国の企業や外国人に対して製品や情報などを提供すると規制の対象になる場合があるというものです。

現地の中国人スタッフと日本人駐在員とのやり取りが当局への申請や許可の対象となれば、日常的な業務に支障が出ると心配されています。

日本企業も高い関心

輸出管理法の施行を前に、JETRO=日本貿易振興機構の北京事務所は、先週、法律の内容についてオンラインでセミナーを開きました。

日本企業の現地法人の社員や日本の本社の担当者など、募集定員の2倍にあたるおよそ300人が参加し、関心の高さをうかがわせました。

セミナーでは講師の中国人弁護士が、違反した場合の処罰が厳しいことや、規制に対応するための社内の態勢づくりの必要性などを説明しました。

参加者からは、規制対象となる品目のリストがいつ出てくるのかや、当局に対する輸出許可の申請はどのように行うのかといった質問が寄せられました。

これに対して弁護士は、今の時点で対象品目が明らかになる時期や申請方法は不明なため、まず自分の会社で扱っている品目をリスト化しておき、具体的な内容がわかった時に対応できるにようにすることや今後、関連する法令の整備などが想定されるので情報収集が重要だと答えていました。

JETRO北京事務所の日向裕弥副所長は「中国が、国際競争力の向上やほかの国への報復のために法律を恣意(しい)的に運用するのではないかという心配の声が寄せられている。今後は米中双方の輸出規制に注意が必要だが、自社の製品が対象外なら過度に気にすることもないので萎縮しすぎず情報収集を行ってほしい」と話していました。

経産省「日本企業は厳しい局面に直面」

1日に施行された中国の「輸出管理法」について、経済産業省経済安全保障室の香山弘文室長は「具体的な規制の運用について不明な点が多い。規制の目的が中国の安全と利益と書いてあり、かなり幅広い形で運用される可能性があるのではないか」と述べ、中国政府の運用しだいで日本企業に影響が出ることに懸念を示しました。

特に中国から輸出された素材を日本国内で加工してほかの国に輸出する再輸出も規制の対象になるおそれがあるとして「突然の他国の決定で、企業が使っているサプライチェーンが、すべてその国の規制当局にお伺いを立てなければならないものに変わってしまう可能性があり、明らかな経営リスクだ」と指摘しています。

一方、アメリカ政府も中国の通信機器大手、ファーウェイなどへの輸出を規制していることから「日本企業は、安全保障に関わる技術を管理しようとする主権国家のはざまに追い込まれ、厳しい局面に直面するのは間違いない」と述べ、米中双方の企業と取り引きをしている日本企業が板挟みになるおそれがあるとしています。

各国が規制の強化を急ぐ背景にはAI=人工知能などの高度な技術が軍事転用されるなど安全保障上の懸念があるとされていて「安全保障を切り口に特定の方向性を持った産業政策を進めていくのが世界的なトレンドだ。安全保障の観点から技術を見る視点、そこへの関心をいかに高められるか、これが日本の企業にとって最も求められることの1つだ」としています。

今後の政府の対応について、香山室長は「法律の施行を受けて今後、具体的な運用の方針が対外的に公表されると思うので、中国の政府当局とは密接な協議をさせていただきたい。日本企業に対し、コンプライアンスの問題を超えた不当な働きかけがあった場合には、日本政府が前面に立って調整にあたっていく」と述べました。

茂木外相「 詳細不明部分も注視していく」

茂木外務大臣は閣議のあとの記者会見で「中国の輸出管理法は、運用がどうなるのか、必ずしも明確にされておらず、運用しだいでは日本企業の正当な経済活動やサプライチェーンに影響を与える可能性があると考えている。法律の運用の在り方について、高い関心を持って注視していきたい」と述べました。